シェアハウスやコワーキングスペースの設計を得意とし、
新しい時代の暮らし方、生き方を示してきた猪熊純さん。
新進気鋭の建築家に、渋谷エリアに住むこと、
集合住宅のクリエイティブなあり方についてうかがいました。

クリエイティブな渋谷で、
生活を手づくりする

僕は、独立した頃から新しいライフスタイルや働き方を、建築を通して提案してきました。当時はまだメジャーじゃなかったシェアハウスやコワーキングスペースの設計に積極的に取り組んできて、今でもそういう仕事は多いです。

設計をするときは、住む人がどういう生活をしそうかを徹底的に洗い出すところから積み上げます。いわゆる建築の教科書に書いてある手順とは違いますが、業界でない人にとってはむしろ自然なことかもしれません。本来はそうあるべきですから。
いまの建築業界は、大量に建てないとビジネスが回らない仕組みになってしまっています。毎年すごい数のタワーマンションやオフィスが建つじゃないですか。あれは、過去の設計をそのまま機械的に敷地に当てはまめてしまっていることが多い。僕らはあえて「本当にそれでいいのか?」と、暮らす側目線から建築というものを再構築する作業をしています。

渋谷は、やっぱり「クリエイティブ」がひとつのキーワードになっていると、仕事でかかわっていても感じます。もともと渋谷にはそういうイメージがありますよね。けど、どれくらいコアか、についてはレイヤーがあると思う。僕のような、大学デビューでクリエイティブなふりをしている建築家もいれば(笑)、生まれも育ちも渋谷という人もいて、彼らの本物っぷりといったら(笑)! でもそういう人たちも排他的ではない。センター街には若者がいて、円山町のホテル街まで行くとまた違った層の人がいる。ごった煮が受け入れられて、全体としてクリエイティブということになっている。その裾野の広さが渋谷の魅力だと思います。

家としても仕事場としても
雰囲気のいい内装

それから、渋谷エリアに住む人はクリエイターやベンチャー勤め、副業をしていて名刺が2枚あるなんて人も多いです。そういう人は家を仕事場にすることも十分ありえるので、SOHOに近いパブリック感のある内装で、「ここで仕事もしている」と言ったときにかっこいい雰囲気がいい。クリエイティブな仕事をしている人が自宅兼仕事場にできる建築って意外とないんです。いかにも新築マンションという感じのつやつやした部屋だと、「ここが仕事場」と言うのはちょっと恥ずかしい。そうではなくて、食事をしていれば家っぽくなるし、大きなテーブルがあれば仕事場っぽくなる部屋がいいですね。

住む人が暮らし方の幅を広げられるようにするには、例えば、室内が土間でつながっているように仕上げるのも手です。床をモルタルやコンクリートのような素材にすることで、実際は靴を脱いであがるけど、屋外のようにラフに使えるようになる。好きなところに植物を置いたりもできます。フローリングや畳だとそこでの過ごし方が決まってしまうし、上にカーペットをひくと、インテリアとしてやりすぎになる。どんなものを入れても全体が調和しやすくなる床が理想的です。

壁の仕上げも工夫できます。全体を木で覆って白く塗るパターンはよくありますが、躯体のコンクリートがあらわになっていて、そのまま風合いを楽しんでもよし、手を入れるもよし、という部分を残してもいいですね。

猪熊さんのご自宅。DIYした机や壁に貼った絵が部屋と一体となり、あたたかな空気感を紡ぎ出している。

過ごし方を選ぶ楽しみがある部屋

自分で生活をつくるということは、内装に手を加えるだけでなく、「今日はここでこんなことをしよう」と、日々部屋での過ごし方を、楽しみながら選びとっていくことでもあります。設計では、そういうバリエーションもたくさん用意しておきたい。
いわゆる"LDK"を考えるとき、リビングとダイニングを一つにまとめる方法もあるけれど、そうすると生活スタイルも一つに狭まってしまう。キッチンとの接続の仕方などで、どっちにも読み取れる間取りにすると、キャラクターの違うパブリックな場所が2つできます。すると「今日の朝ごはんはリビングで食べよう」とか、「ダイニングで本を読もう」とか、ダイニングがリビング的になったり、リビングがダニング的になったりして、それを選ぶ楽しさが生まれます。

僕はいま、妻と一緒に設計とリノベーションをした小さなマンションに住んでいます。最初はこどもはいませんでしたが、やがて2人生まれて、そのたびに部屋の使い方も変わりました。夜は寝室ではなく和室に家族で寝たり・・・。そうした経験からも、部屋単体で生活を完結させるのではなく、柔軟に用途を切り替え変えられるのはいいことだと思います。

家ではDIYも結構やっています。「こどもがお絵かきをする机がいるよね」となると、天板を工務店に頼んで、足はアマゾンで買って、娘と一緒につけたり。4歳の女の子がドリルを扱っているという(笑)。でも、「これで遊ぶんだよ」とおもちゃを提供されるよりは、いい刺激になっているんじゃないかな。

考えが近い人が集まり、
マンションを育てる

マンションの場合は複数人で住むので、共同体感は生まれてほしいところです。べったりでなくても、互いにあいさつしやすいくらいには、何かしら関係がほしい。そのためにも、建築に自然と楽しめる共有空間が仕込まれているといいと思います。
そこで大事な要素のひとつが庭です。積極的に利用しても良いし、眺めるだけでもいいし、自由に入れるとよりよい。一緒に植物を育てている感覚をきっかけにして、少しずつ関係が育まれるでしょう。

経験上、どんなマンションでも管理がきちんとしていれば、20年経ってもきれいなまま持続できます。それには、住人みんなでそのマンションを守り育てていこうという空気になることです。そうなるためには、年齢が近いというよりは、考え方が近い人が集まってくれた方がいいですね。単に値段とか駅近だからということではなく、趣味や暮らしに対するイメージが近い人たちが集まると、設計者が手を放した後も、住人同士で話し合いながら成長していく場になる気がします。もちろん規模にもよりますが、たとえ小規模のマンションでも、住人の考えが合わないと管理しにくいことがあるので。

セグメントを絞りすぎると物件が売れないんじゃないかという怖さもあるけれど、絞った方が、自分と似た人が集まるという安心感から購入してもらえるパターンもあります。
そして、どんな人が集まるかを決めるのは建物全体が醸し出す雰囲気。なかでも意外と重要なのが、植栽の存在感です。植物にも、和風なのものから華やかなものまで、いろいろあります。うまく選ぶことで、好みの合う人を集めることができます。

渋谷というまちの
生活スタイルに合わせた設計

渋谷エリアにマンションを設計する場合に、まちの環境をデザインにどうやって組み込めるか考えると、ベタですが自転車生活が充実するしつらえは大切です。

六本木や新宿へ行く最短経路でも何パターンかあって、沿線の道を自転車で楽しめる場所ですよね。電車ではなく自転車で移動する比率が増えると、まち全体をフィールドに生活している感覚になるし、仕事も自転車通勤になったりする。となると、駐輪場もかっこよくしておきたい。駐車場の隅っこにあるのではなく、いい自転車を持っている人でも安心して置けるよう、広くてしっかりしたつくりにしたいです。

さらに、駐輪場の隣にベビーカーを置けたりすると、子育て世代同士でつながりが生まれます。同じマンションに子育て仲間がいるとわかるだけでも、いざというときに相談できるし、安心感がありますよね。

もし僕が渋谷エリアに住むのなら、いろんな面白い場所が近くにあるので、そこも含めて生活したいですね。平日の朝から家族でおいしいパン屋へ行って、そこで朝ごはんを食べて、そのまま出勤、保育園もそこから連れていくとか。渋谷なら、休日だけでなく平日も、そんな風にして家族の豊かな時間をつくれそうです。

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